次の日、かみいるがぼくに尋ねたんだ。
「 きみはなにをしているの? 」
って。
そんなの決まっているよ。
生きているんだよ。
「 どうして生きているの? 」
そんなの決まっているよ。
生きていると嬉しいからだよ。
「 生きていることは嬉しいことだけなの? 」
そんなの決まっているよ。
生きていると辛いこともあるよ。
「 辛いことが嬉しいことよりも多くても生きているの? 」
そんなの・・・
そんなの・・・
わからないよ。
辛いことの方が嬉しいことよりも多かったら生きていても仕方がない。
そんなの・・・
そんなの・・・
あんまりだよ。
かみいるはあはははと笑った。
いたずらっぽく笑った。
「 昨日のおさらいはここまで。
ここからは今日のお話しにするね。
きみは死にたくないよね。
きみは生きていたいよね。
きみは辛いことよりも嬉しいことが多い方がいいよね。
じゃあさ、どうしてきみは他の生命に苦痛を与えたり殺したりしたの? 」
そんなの・・・
そんなの・・・
答えたくないよ。
・・・
・・・
本当は苦痛を与えたり殺したりなんてしちゃいけないってわかっているよ。
でも・・・
でも・・・
怖かったんだ。
他人が死ぬより自分が死ぬ方が怖かったんだ。
自分が殺されないように他人を威嚇していたんだ。
恐怖を表に出さない人がいたら自分が負けていると感じたんだ。
だから無理やり恐怖を植え付けるために苦痛を与えたんだ。
一番に殺されるのは一番弱いやつだ。
一番弱いやつは一番怖がっているやつだ。
だからぼくが一番怖がっているわけにはいかないんだ。
だからぼくは目の前の人を一番怖がるように苦痛を与えたんだ。
それでもぼくは怖かったんだ。
怖くて・・・
怖くて・・・
ぼくを包む恐怖から逃れるために人を殺したんだ。
そんなの・・・
そんなの・・・
しかたないじゃないか。
「 全然しかたなくなんてないよ。
ぼくたちから見たらきみも他の生命も同等の1個の生命体なんだよね。
この価値はいつどこで誰が見ても変わらないよ。
きみが1年間生き続けるために1,000人が被害に遭う理屈がわからないよ。
きみは68年目に死ぬ。その間に68,000以下の人が被害に遭う。
善意ならしかたないと言えるけど、悪意だから全然しかたなくなんてないよ。
きみがきみのために他の生命を食用でもないのにむやみに殺したりしてきた。
きみがきみのために他の生命にむやみに苦痛を与えたりした。
なぜそんなことをしていいのか、
それはきみがなぜかぼくたちから優遇されていると思い込んでいるようにしか見えないんだよね。
きみは優遇されているからそうではない他の生命を傷つけることができる。
もちろん、ぼくたちはきみを優遇したりなんてしていないよ。
どうしてきみは自分が他の生命よりも優遇されていると思っているの? 」
優遇されている、そんなこと考えたことはないよ。
そんなの・・・
そんなの・・・
わからないよ。
ぼくはぼくだから、それだけだよ。
その瞬間、自分とそっくりの人がぼくの横に現れたんだ。
かみいるとぼくとその人が正三角形の頂点の位置にいる。
かみいるはその人に話しかけている。
そして、その人はぼくを指さして言ったんだ。
きみはきみだ、って。
「 わかったかな。きみは『 ぼく 』じゃない。きみはきみなんだ。
ぼくはぼくだからという理屈は通らないんだ。
宇宙に存在する全ての生命がぼくなんだ。
それなのに自分のために多くのぼくたちを犠牲にするなんてとてつもない愚か者だよ。
きみのような愚か者は2度と自分のことをぼくだなんて思うな。 」
ぼくはぼくと思ってはいけない。
そんなの・・・
そんなの・・・
わからないよ。
これからどうすればいいのかわからないよ。
「 頭の悪いきみは困っているようだね。大丈夫答えをおしえてあげるよ。
きみはこれから『 ぼくたち 』と自分のことを呼ぶんだ。
宇宙に存在する全ての生命の1個体だと認識してぼくたちと呼ぶんだ。
くれぐれも近視眼的に周囲の人たちだけを見てぼくたちと言ってはいけないよ。
きみはこれから宇宙に存在する全ての生命の1個体だと認識してぼくたちと自分のことを呼ぶんだよ。 」
ぼくたち・・・
ぼくたち・・・
ぼくはぼくたち。
「 ぼくたちは死にたくないよね。
ぼくたちは生きていたいよね。
ぼくたちは辛いことよりも嬉しいことが多い方がいいよね。
きみはこれからも他の生命に苦痛を与えたり殺したりするの? 」
ぼくたちは死にたくない。
ぼくたちは生きていたい。
ぼくたちは辛いことよりも嬉しいことが多い方がいい。
ぼくたちは誰も殺さないし誰にも苦痛を与えたりしない。
「 よくできました。その答えを持つことが不幸で哀れな愚か者から脱皮する条件だよ。
これからはがんばって善優ポイントを貯めるようにしてね。 」
善優ポイント、それってなんだろう。
「 きみは善優ポイントと悪劣ポイントを認識していないのか。
なるほど、今までの愚行の原因がわかったよ。
ぼくたちはきみたちの一部の領域にぼくたちのルールを書いているんだよ。
きみたちはその領域を良心などと表しているね。
どうやら、きみは良心から目を逸らし続けて生きてきたようだね。
それはそれで大変不幸なことでもあるわけだけれどもね。
これから大切なことをきみに伝えるよ。
ぼくがきみのもとに遣わされた理由でもあるのだけれどもね。
きみの悪劣ポイントは10兆を超えているんだ。
きみは次からの生命で苦しみ★★★★★の環境を一定回数繰り返すことになるんだ。
苦しみ★★★★★の環境で生まれた生命はすぐに殺される運命にある。
生命固有サイクルを1周する前に殺されることで善優ポイントが1ポイント加算される。
苦しみ★★★★★の環境から苦しみ★★★★の環境に移行するには残存悪劣ポイントを1兆未満にする必要があるんだよ。
残存悪劣ポイントは獲得善優ポイントと獲得悪劣ポイントの相殺後の値だよ。
かんたんに言うときみはこれから10兆回以上生まれた直後に殺されることになるんだ。
まちがっても生き延びて生命固有サイクルを1周してはいけない、そのときは善優ポイントは獲得できないからね。
ぼくたちのsystemはある目的のもとに管理運用されているんだ。
残念ながらsystemのバグとしてきみのような恐怖に耐えられない弱すぎる個体も誕生してしまう。
そのような個体は何度も何度も殺される恐怖を味わうことで恐怖への耐性をつけてもらうんだよ。
systemのバグで生まれた弱すぎる個体は虫等に姿を変えて鍛えられるんだ。
文字通り本当にバグだよね。 」
そんなの・・・
そんなの・・・
あんまりだよ。
一切の説明もなくそんなルールで運命を決められるなんて。
ひどすぎるよ。
「 全ての生命の一部に説明は書いてあるんだよ。それを無視し続けた虫のようなきみが悪いんだよ。虫だからって無視は許されないんだよ。 」
虫・・・
虫・・・
ぼくはそんなちんけな存在じゃない。
「 今たまたま人であるきみと今たまたま虫である個体となにも変わらないよ。 」
そんなの・・・
そんなの・・・
あんまりだよ。
・・・
ひどすぎるよ。
「 だからきみに教えに来たんだよ。善優ポイントを稼ぐようにしようねって。 」
もう間に合わないよ。
「 そんなこと決まってないよ。これから10兆以上の善意ポイントを稼げば良いんだよ。 」
そんなこと無理だよ。
「 そんなことはないよ。きみには通貨というぼくたちの世界では何の役にも立たないおもちゃがあるじゃない。それを使って稼ぐことを考えてみてよ。 」
通貨はおもちゃじゃないよ。
「 きみは今は人として生きている。その前もその後もその通貨とやらは持っていることはできないよね。きみが持っているのは善優ポイントと悪劣ポイントのそれぞれの累計獲得数だけだよね。ぼくたちが評価するのは善優ポイントをどれだけ多く稼いだかということだけなんだ。宇宙の所有者はね、ある競技に参加していてね、参加者の中で最大の生命経験値を獲得することを目指しているんだ。この辺の事情はきみたちは巻き込まれて迷惑かなって同情の余地もあるんだけどね。生命経験値は喜びが苦しみの1,000倍に加算されるルールだから、きみたちのような喜びをわざわざ苦しみに変えてしまう生命はぼくたちからしたらとてつもなく迷惑なんだよね。限られた生命が循環する世界だからきみたちを放置することもできないんだよ。だから生命環境くじ(ガチャ)のsystemを使ってなるべく悪影響の及ばない存在へと追いやるように調整しているんだよ。 」
ぼくたちはあなたたちの道具ではない。
「 道具なんて考えてはいけないよ。きみたちの存在は『 そういうもの 』なんだよ。 」
ぼくたちの存在って、苦しみよりも喜びを多く感じるために生きているだけってことなの。
「 その通り。きみたちは宇宙全体で喜びを最大にするために存在しているんだ。 」
ぼくたちの存在理由がわかったよ。
宇宙の所有者はどうして競技の中で宇宙の獲得生命経験値を最大にしたいと思っているのかな。
「 それはね、そうすることで競技の1位を取ることができるからだよ。そうするとね、あっ、途中から話し過ぎていたよ。本来きみに話すことじゃないことまでつい話してしまった。でも、大丈夫、きみは起きたら何も覚えていないから。 」
善優ポイントを稼ぐことまで忘れてしまうのは困るな。
「 それは大丈夫。きみの良心に印が付いたから。きみはこの夢から覚めてきみの人としての世界で暮らすときに今までは見向きもしなかった良心を見ることになるからね。良心に書かれているぼくたちのルールを守れば善優ポイントを稼ぐことができるよ。 」
良心に従いたい。
忘れたくない、良心を見つめることを忘れたくない。
忘れたくない。
忘れたくない。
「 素晴らしい心がけだね。印を濃くしておいたよ。ぼくたちからのせめてもの贈り物だよ。 」
喜びを最大にする。
自分だけじゃない、自分に関わる周囲だけでもない、宇宙全てを視野に入れて喜びを最大にする。
こんな簡単なことがどうして今までわかっていなかったのだろうか。
それじゃあ頭の悪い不幸で哀れな愚者と言われてもしかたなかったな。
今までは自分だけを見ていた。
自分の恐怖から逃げることだけを必死に考えていた。
でも、よくよく考えれば怖いのは自分だけではないんだよね。
宇宙に存在する全ての生命が恐怖と闘っているんだよね。
そのことに気づけただけでもぼくの恐怖心は少しやわらいだよね。
そうだった、ぼくたちだった、ぼくたちの恐怖心はやわらいだんだよね。
ぼくたちは弱いんだよ。
でも弱すぎてはいけないんだ。
恐怖と闘うために恐怖を理解する。
するとおのずと恐怖に愛着をもつ。
すると恐怖が消えていく。
「 恐怖ってなんなの? 」
ぼくたちを害そうとする見えない力だよね。
「 それってなんなの? 」
飢え、寒さ、暑さ、圧力、これらがぼくたちの限界を超えるものだよ。
「 それってないの? 」
あるかもしれない、けれど無くすことができると思うよ。
ぼくたちはそれらと闘って生きていくんだ。
ぼくたちは喜びを最大にするために生きていくんだ。
かみいるはあはははと笑った。
いたずらっぽく笑った。
そして言ったんだ。
「 よくできたね。ぼくたちはきみのことを頭の悪い不幸で哀れな愚か者とはもう称しないよ、straysheepなんても称しない。きみは大切な1つの答えにたどり着いたんだ。ぼくたちからきみに直接はたらきかけることはもうないだろうね。ただね、きみの獲得した悪劣ポイントだけはどうしようもないから、きみの運命はきみの手で切り開いてほしい。これからは、本当に大切なもの、本当に欲しいものを獲得してほしい。お願いだよ。今日はもう疲れたよね、ぐっすりおやすみ。 」
って。
きみはなにをしているの
かみいるとぼく